2008年3月7日 サントリーホール
聖トーマス教会合唱団 ゲヴァントハウス管弦楽団
指揮:ゲオルク・クリストフ・ビラー
(トーマス・カントール、聖トーマス教会音楽監督)
ソプラノ:ウテ・ゼルビッヒ アルト:エリザベート・ヴィルケ
テノール:マルティン・ペッツォルト テノール:アンドレアス・ヴェラー
バルトン:アティアス・ヴァイヘルト バス:ゴッホルト・シュヴァルツ
「ミサ曲ロ短調」につづき「マタイ受難曲」をゲオルク・クリストフ・ビラー指揮、聖トーマス教会合唱団 ゲヴァントハウス管弦楽団の同一のメンバーで聴きました。ご存知の通り「マタイ受難曲」は3時間を越える長大な作品で、しかも新約聖書の「マタイによる福音書」から、イエス・キリストの死に至る受難の場面(詩句)のみを抜き出し加筆再構成した誠に重い内容の作品であります。
通常テノールによって務められる福音史家と合唱がこの受難劇の舞台回しの役割をにないます。そしてイエス・キリストをはじめ福音書中の登場人物がソリストによって演じられ、この受難劇を大河のように歌い上げていくのです。
合唱はその旋律の多くを中世から歌い継がれてきたグレゴリオ聖歌から採られているといわれ、その和声は対位法に基づいたポリフォニー音楽を基盤においております。これに福音史家の語り歌いであるレチタティーヴォや数々のアリアがからみ、渾然一体となってイエス・キリストの受難の悲劇が歌い上げられていくのです。
記録によればJ.S.バッハの「マタイ受難曲」は1727年4月11日にライプチッヒの聖トーマス教会において初演されました。もちろん指揮はJ。S.バッハ自身によるものであり聖トーマス教会合唱団によって歌われたのです。
CDで聴く場合にはあまり意識いたしませんが、実演ではソリストや合唱団と管弦楽団の意思の疎通がありありと伺えるのです。39番のアリアでのコンサートマスターのヴァイオリンとアルトや55番のバスのアリアとヴィオラ・ダ・ガンバの絡みなどは実演の場におりませんとその微妙な掛け合いは把握できないと思います。「ミサ曲ロ短調」でも感じましたが、バッハの楽曲におけるフルートの重要性も、実演を聴くことによって実感することができるものの一つです。またコーラスも巧みに左右のコンビネーションが組まれていて、3時間余にわたる長丁場を乗り越えていく仕組みが組まれていることを知ることができました。
しかし、やはり3時間を越える演奏は演奏者には多大な負担を与えるもので、演奏の後半痛ましいことに合唱団員が倒れるシーンもあり、観客の中にも退席者が普段より多く見られました。特に少年たちには9日間に7公演(内6回がマタイ受難曲)というスケジュールは過酷であるといえましょう。現代の商業的公演の問題点の一面を目の当たりにする感もありました。
3時間を越える公演は誠に過酷ではありますが、演奏を終えたマエストロや歌い手、演奏者の全力を尽くしたものだけに許される、満ち足りた達成感と安堵の表情と、アーティスト相互の厚い信頼と連帯の波動は、聴衆のこころにも深い感動となって迫ってくるものがありました。アンコールはありませんでしたが、演奏者の全力投球に触れ、誰もがそのことに納得したと思います。
CDに関する情報は「誰かと音楽の話がしたい-1」をご覧下さい。